ここでは、日本国憲法の「三大原則」のひとつである「基本的人権の尊重」について、「基本的人権」とは具体的にどのようなものなのかを整理していきます。
■日本国憲法の「三大原則」「三大義務」などの内容は、こちらの記事をご覧ください。
【中学社会(公民)】日本国憲法の基本原則(三大原則・三大義務・改正等)
基本的人権とは?
まずは、「基本的人権」は日本国憲法の「三大原則」のひとつですが、実際に憲法ではどのように明記されているものかを確認しておきます。
上に引用した「憲法第九十七条」と「憲法第十一条」から、「基本的人権」は「侵すことができない永久の権利」であると規定されていることが分かります。
ただし、「永久に侵すことができない」ほど重要な権利ではありますが、無制限で認められるものではありません。
ある個人Aと個人Bがそれぞれ自分の権利を主張した際に、どこかでそれぞれの権利がぶつかってしまうこともあるでしょう。自分の権利ばかりを主張していると、社会の秩序が乱さることもあります。
ですから、憲法では権利の「濫用の禁止」が明記されています。さらに、基本的人権には、一定の制限が設けられているのです。それが「公共の福祉」という概念です。ちなみに「公共の福祉」は社会全体の利益という意味で捉えておけば良いでしょう。
以上のことから、基本的人権は、
②「濫用禁止」であり、
③「公共の福祉」に反しない限り最大限尊重されるもの
と、まとめることができます。
基本的人権①「平等権」
では、次に基本的人権の具体的な内容を確認していきます。まずは「平等権」。
平等権では、大きく4つの内容で整理しましょう。
②法の下の平等
③両性(男女)の平等
④参政権の平等
1つ目は、「個人の尊重」。憲法第十三条に規定されている内容です。すべての国民は、それぞれが個人として尊重される、平等な存在だということです。
2つ目は「法の下の平等」。憲法第十四条に明記されています。すべての国民が法の下で平等な存在であり、人種などさまざまな条件、状況によって差別されないというものです。
3つ目は、「両性(男女)の平等」。上の憲法第十四条と憲法第二十四条を合わせてチェックしておきましょう。
② 配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。
最後の4つ目が「参政権の平等」。選挙権・被選挙権に関わる内容で、憲法第四十四条に明記されています。第十四条「法の下の平等」の内容と似ている文言が多いので、合わせて覚えておきましょう。
基本的人権②「自由権」
では、次に「自由権」について確認しておきましょう。
「自由権」は大きく3つの「自由」があります。その3つというのは・・・
②精神の自由
③経済活動の自由
です。
まずは、これら大枠を抑えた上で、細かい部分を肉付けして覚えていきましょう。
身体の自由
一つ目は「精神の自由」です。奴隷的な拘束や苦役など、身体的な制約に関するものです。それぞれ該当する憲法の条文を確認します。
この条文は、「奴隷的拘束・苦役の禁止」を定めたものです。
この条文では、「法定手続きの保障」が明記されています。何か犯罪を犯した場合であっても、自由が奪われたり、刑罰を科されるには法律の定める手続きによらなければならないというものです。時の権力者やその場の担当官の裁量で好き勝手に自由を制限したり、命を奪ったり、刑罰を与えてはいけないということです。
次に、3つの条文をまとめて引用します。
② 捜索又は押収は、権限を有する司法官憲が発する各別の令状により、これを行ふ。
これらは、「逮捕・抑留・捜索などの刑事手続きの保障」について明記した条文です。
刑事ドラマや「警察24時」のようなドキュメンタリーでおなじみの人もいると思いますが、たとえ犯罪者であっても、裁判所(裁判官)が発行した令状がなければ「逮捕」「捜索・押収」などが出来ない(現行犯は例外)というものです。
これは「拷問や残虐刑の禁止」を明記した条文です。
拷問というのは、一般的に、自白させるために肉体的・精神的に苦痛を与える行為を言います。たとえ、犯罪者と疑わしき人であっても、拷問を与えたり、残虐な刑罰を与えてはいけないということです。
以上が、「身体の自由」に関する条文とその内容でした。まずは、どんな内容が「身体の自由」に該当するのかを覚えましょう。条文までは覚えなくても大丈夫な場合が多いので、無理はせず、余裕があれば覚える程度と捉えておきましょう。
精神の自由
次に「精神の自由」です。
② 何人も、宗教上の行為、祝典、儀式又は行事に参加することを強制されない。
③ 国及びその機関は、宗教教育その他いかなる宗教的活動もしてはならない。
② 検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。
これら「精神の自由」の具体的な内容については、聞いたことがある人も多いのではないでしょうか。
「精神の自由」の主な内容は、
②信教の自由
③集会・結社・言論・表現の自由
④学問の自由
です。
経済活動の自由
自由権の最後は、「経済活動の自由」です。
関係する憲法の条文を引用しておきます。
② 何人も、外国に移住し、又は国籍を離脱する自由を侵されない。
② 財産権の内容は、公共の福祉に適合するやうに、法律でこれを定める。
③ 私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用ひることができる。
「経済活動の自由」は主に2つの点をおさえておきましょう。
②財産権
どこに住んでも、どこに引っ越してもOK(外国でも)で、職業も自由に選択できるし、家や土地など財産を所有するのも自由ということです。
ただし、この2つの条文には、ともに「公共の福祉に反しない限り」「公共の福祉に適合するように」「公共の福祉のために」という文言が明記されているところに注目しておきましょう。
例えば、「職業選択の自由」に関しては、特定の資格を持っていない人が付けない職業というものがあります。医師や看護師、建築士などが代表例です。専門的な知識や技術が必要な職業と理解しておけば良いでしょう。こうした職業は、誰でも(知識や技術がない人も)自由に就ける方が恐ろしいですね。そういった職業は一定の自由の制限があります。
財産権についても、同様に、「公共の福祉」による制限が一部あり得ます。例えば、道路を作ったり、ダムを建設したりする場合です。社会全体の利益を優先して、一個人の人権を一部制限することがあり得ます。
基本的人権③「社会権」
では、次に「基本的人権」の大きな内容の3つ目にあたる「社会権」について整理しておきましょう。
「社会権」の具体的な内容は大きく3つ。
②教育を受ける権利
③労働者の権利
です。
生存権
まずはじめに「生存権」について確認します。
これは「社会権」の中でも特に重要な権利です。憲法の条文も有名なので、合わせて丸暗記してしまいましょう。
② 国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。
「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」という文言は、定期テスト等でも頻出なので、特に注目しておきたい用語です。
また、「社会権」(特に生存権)について、世界ではじめて明記された憲法がドイツの「ワイマール憲法」です。これも重要な用語なので合わせてチェックしておきましょう。ちなみに、制定された年は1919年(第1次世界大戦終結・ヴェルサイユ条約の締結と同年)です。
教育を受ける権利
「教育を受ける権利」は、国民の義務(三大義務)のひとつ「教育を受けさせる義務」とセットで覚えておきましょう。憲法でも同一の条文で明記されています。
② すべて国民は、法律の定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負ふ。義務教育は、これを無償とする。
労働者の権利(勤労権・労働基本権)
労働者の権利は、大きく「勤労権」と「労働基本権(労働三権)」の2点で整理しておきましょう。
「勤労権」は「教育の権利」と同様、権利と義務がセットになっています。
② 賃金、就業時間、休息その他の勤労条件に関する基準は、法律でこれを定める。
③ 児童は、これを酷使してはならない。
「労働基本権」は大きく3つの権利があるので、労働三権と呼ばれることもあります。具体的には「団結権」「団体交渉権」「団体行動権」です。
かんたんに言えば、労働者は「みんなでまとまってグループ(労働組合)を作ってOK(団結権)」で、「グループで経営者と労働条件等について交渉(話し合い)してOK(団体交渉権)」で、話し合いがまとまらない場合、「みんなでストライキしてもOK(団体行動権)」という感じです。
■これら「労働基本権」については、基準となる法律(労働三法)とともに、後の単元でも学習します。より具体的な内容は以下の記事で確認してください。
【中学社会(公民)】労働者の権利・保護(労働三権・労働三法)
基本的人権④「基本的人権を守るための権利」
では、次に、「基本的人権を守るための権利」を確認しておきます。これに関しては、最近の教科書等では「人権を確実に保障するための権利」となっている場合もあります。
この権利は具体的に3つ、区分の仕方によっては2つの内容に分類できます。
②請求権
③請願権
③の「請願権」は、国や地方公共団体などに何かを要望する権利のことですが、これは①の「参政権」に含まれるとも考えられています。が、ここでは①は主に投票などによる政治への参加というものをまとめました。
参政権
「参政権」といえば、まずは「選挙権」と「被選挙権」をイメージできると良いですね。
② すべて公務員は、全体の奉仕者であつて、一部の奉仕者ではない。
③ 公務員の選挙については、成年者による普通選挙を保障する。
④ すべて選挙における投票の秘密は、これを侵してはならない。選挙人は、その選択に関し公的にも私的にも責任を問はれない。
「選挙のしくみ」については、のちの単元でくわしく学習することになります。ここでは、国や地方の議会の議員さん(国民の代表者)を選挙で選ぶ「選挙権」と、自分が議員に立候補できる権利である「被選挙権」がある、ということを覚えておきましょう。
【※選挙に関する関連記事】選挙制度の具体的な内容はこちらの記事をご覧ください。
他には、選挙の際に同時に行う「最高裁判所の裁判官の国民審査」と、憲法改正手続きの際の「国民投票」が「参政権」とされています。
② 最高裁判所の裁判官の任命は、その任命後初めて行はれる衆議院議員総選挙の際国民の審査に付し、その後十年を経過した後初めて行はれる衆議院議員総選挙の際更に審査に付し、その後も同様とする。
③ 前項の場合において、投票者の多数が裁判官の罷免を可とするときは、その裁判官は、罷免される。
④ 審査に関する事項は、法律でこれを定める。
⑤ 最高裁判所の裁判官は、法律の定める年齢に達した時に退官する。
⑥ 最高裁判所の裁判官は、すべて定期に相当額の報酬を受ける。この報酬は、在任中、これを減額することができない。
② 憲法改正について前項の承認を経たときは、天皇は、国民の名で、この憲法と一体を成すものとして、直ちにこれを公布する。
請求権
「請求権」については、「裁判を受ける権利」と「●●賠償請求権」と2つの分類して覚えておくと良いでしょう。ちなみに「●●賠償請求権」は2つ、「損害賠償請求権」「刑事補償請求権」です。条文の確認とともに、具体的な内容を確認しておきましょう。
「裁判を受ける権利」、これはそのままですね。
次は「損害賠償請求権」です。「損害賠償請求」というのは、社会生活上よく使われる言葉ですが、ここでは、国や地方公共団体によって個人が損害を受けた場合の話です。相手が国の場合は、「国家賠償請求」などと言われることもあります。
「賠償請求権」は、もうひとつ「刑事補償請求権」があります。これは、刑事事件で逮捕・拘留されたけれど、裁判で無罪だった(冤罪など)場合の補償に関する請求権です。
請願権
「請願権」は「参政権」の一部を考える場合もあります。国や地方公共団体に何らかの要望をする権利のことを言います。
「新しい人権」
さて、「基本的人権」の内容の最後は、「新しい人権」についてです。ここまでに確認した「基本的人権」すべて日本国憲法に規定されたものです。が、「新しい人権」は、憲法に明記されていないもので、時代・社会の変化に伴って社会的に認められるようになってきた権利です。
ここでは大きく4つの権利について整理しておきましょう。
環境権
生活環境に関わる権利で、代表的なものは「日照権」や「嫌煙権」などがあげられます。また、大規模な開発を行う場合に、その開発が環境に与える影響を事前に調査することが義務づけられています。この環境影響評価のことを「環境アセスメント」と言います。
知る権利
「知る権利」は、国民が国や地方公共団体に情報公開を求める権利のことです。国や地方は「情報公開法」「情報公開条例」に基づいて「情報公開制度」が設け、国民の請求に応じて情報を公開しています。
プライバシーの権利
「プライバシーの権利」は、個人の私生活に関する情報=個人情報が公開されない、保護される権利のことを言います。
住所や電話番号などとはじめ、病歴や信仰なども含まれます。また、自分の顔などを勝手に撮影されたり、写真や映像などを公表されたりしない「肖像権」も「プレイバシーの権利」の1つとされています。
自己決定権
「自己決定権」とは、文字通り、自分の生き方や生活の仕方を自分で自由に決定する権利のことです。
特に、医療分野での話題が注目されています。中でも、治療方針などを患者が自分で決定できるように、医師などが患者に十分な説明をして同意を得る「インフォームド・コンセント」は特に重要です。これに付随して、第三者(主治医以外の医師や別の病院の医師)に診断や治療に関する意見を聞く「セカンドオピニオン」も合わせてチャックしておきましょう。
また、自分が死亡した際に臓器提供の意思を「臓器提供意思表示カード」で示すのも「自己決定権」のひとつとされています。
【動画講座】基本的人権とは?
ここまでの内容をまとめた動画講座です。ぜひご覧ください。
■効果的・効率的に「成果を出せる」勉強方法について知りたい方は、ぜひこちらの記事も合わせてご覧ください。タイトルに「中学生の勉強法」とありますが、小学生でも高校生でも(場合によっては大人でも)役に立つ内容になっています。